かねたたき、あかねちゃん

2週間ほど、かねたたきと暮らした。

ある日、部屋の中で、ツン、ツン、ツン、ツン、という声を聞いた。はじめは声の主を知らぬまま、思いがけない訪問者の声を毎晩楽しんでいたが、ある時アンスリウムの鉢の中に小さなコオロギのような姿を見つけた。「虫の音」で検索したら、それは、かねたたきだとわかった。
以来「かねたたき」の名にちなんで「あかね」、「あかねちゃん」と呼ぶ事にした。

あかねちゃんは、自ら好んでビルの4階のこの部屋までやってきたのだから「かご」に閉じ込める必要もない。こんなかたちで毎日いっしょにいられるのはなんて心地よい事だろう。東京でこんなにも秋の夜長を楽しんだ事があっただろうか。

「昨晩もすてきな音色をありがとう」こうして毎朝アンスリウムの鉢に刺したようじのきゅうりを取り替えるのが僕の日課になった。

けれど、久々に鉢をベランダに出し水やりをした日、あかねちゃんはどこかに消えてしまった。こうなる事はわかっていたのに僕は鉢に勢い良く水をくれた。

かねたたきの音色






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